26歳の冬の話 7

とある人間の記録

続きです。

前回の話はこちらから。

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「帰って来たよ。」

それしか言えなかった。父も「おかえり」としか言わなかった。いろいろ聞きたかった。わからないことしかなかった。どうしてこうなったのか、なぜ今まで放っておいたのか、実際に病状はどうなのか、たくさん聞きたかった。

おそらく父もそうだっただろう。何か言いたそうにしているのは見てとれた。こんな時まで親子でなくてもいいものを、二人してもごもごしていた。

どう言ったらいいものか、お互いに悩んでいたところに看護師さんが呼びに来た。担当医の用意ができたとのことだった。父に話を聞いてくるとだけ伝え、妹と席を立った。

担当医の先生からは事実を淡々と伝えられた。見せてもらったのは父のCT画像。これでも以前は薬学部を目指していたこと、生化学を専攻していたこともあり、医学関係には多少明るいつもりでいた。その程度の知識でも分かるほどであった。胆嚢ガンから始まったガンは肝臓、リンパに入り、リンパ管にも腫瘍があった。いわゆる全身に転移している状態だった。詳しいことを分からないまでも、もう手の施しようがないことは明白だった。

余命宣告はありますか。

知らなければならないと思った。残された時間は有限で、それはとても短いと思った。そして有意義にしなければとも思った。

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「再会と現実」編の第3話でした。親子はどうして似なくてもいいところまで似てしまうものなんでしょうか。それが親子というものなんでしょうね。

続きます。

ではまた。

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